「はじめてのお仕事」のはなし

ガイド試験に合格して、ヤレヤレこれで勉強しなくていいわ、バンザーイと毎日をオメデトウ気分で過ごしていた。


ある日、「お仕事ですよ。」という電話。「少人数から慣らしていくといいですね。」と言われていたっけ。「で、何人ですか?」「40人くらいでしょう。」ナナナ…何と40人?少人数と言っていたのは・・・。「こんな筈では・・」はよくある話。「無理です。」「二次試験の時のようにすれば何とかなりますよ。まだ2週間ありますから。」さらっとおっしゃるところが憎い。他の人からも「初めてがあって、二度目がある。」と背中を押され準備することになった。

カラオケが苦手な私はマイクを持つのも慣れていない。40人もの前で何をしゃべろうか。とりあえず内容を考えて、それを暗記していく作業を続けた。全く2次試験の準備と同じである。

広島港には時々大型クルーズ船が寄港する。800人から1,000人のお客様が下船され観光を楽しまれるのだ。お年寄りが多いのもこのツアーの特徴。

当日、足はガクガク、のどはカラカラ。"Good morning, ladies and gentlemen."初めの一声に40人の顔がすべてこちらを向く。アアー、このままバスを降りて帰りたーい。実は私はアガリ症なのだ。

ガイディングは、前夜まで暗記していたことをすべて吐き出す、これだった。実際にやってみてわかったことだが、時間が遅々として進まないのだ。ひとつのトピックはすぐに終わり次へ。だんだん持ちネタが底をついてくる。何を質問されても満足に答えられないのがわかっていたので、極力質問される間を取らないようにしていたが、そうも言ってはいられない。バスの前に立って無言でいるほど泣きそうな事はない。何度バスの運転手さんに「信号無視してでも、早く目的地に着かせてください。」とお願いしようとしたことか。

とりあえず、何でもかんでも、家族ネタでも東京で暮らした話でも、思いつくことはすべてしゃべって3時間半のツアーは終了。話はガタガタでも一生懸命さはわかっていただけたみたい。優しい声をかけてもらい、チップまでいただいて感激。バスを降りるとき、みなさん上手に握手するように渡されるのだ。チップなんて払う分にももらうなんて思ってもいなかったので、シワシワの1ドル札をながめてはニンマリ。


ツアーから1週間はアドレナリンが体中を駆け巡っていた。それほど私にとっては画期的な出来事だったのだ。

今でもマイクを使うのは苦手である。一方的にこちらがしゃべるのではなく、できるだけ質問をしたりしてinteractiveにやりたい。とんでもない質問をされて、ウソかマコトか分からないような迷回答を考えるのも楽しみである。私のバスに乗った人は、ツアーで「へえ〜」と思った話をくれぐれも他の人には言わないように。恥かきまっせ。